蜷川実花さんといえば、鮮やかな極彩色の作品を思い浮かべる人も多いと思います。しかしこの写真集は、極彩色でもなければ、毒っぽさも陰の奥行もありません。淡く、浅く、境界があいまいで、けれど実花さんの綴る静かな文章と、その中で挿しこまれる植物の写真が、実にグッとくるのです。

私は昔から写真が好きで、また編集者という職業柄もあって本棚には大小の写真集が並んでいます。実花さんは、花の写真も数多く撮られているフォトグラファーで、その中のお気に入りの一冊が、こちらです。

花の写真集ではありません。けれど、これらの作品から思います。花というのは、日常の中に挿しこまれるものなのだ、と。世の中の見たいものと見たくないものとの間にあって、時には人の心情と混じり合い、境界があいまいになりながら、心の中まで入り込んでくる。人と同じ場所で呼吸し、そっと生きる希望の光を照らしてくれているのだと。この写真集は、そんな植物の姿を見事に可視化しているように思ったのです。

いけばなをする私たちはいつだって、刻一刻と移り行く植物の生き死にに立ち会っています。その神聖さと向き合う感覚に近いものが、写真集で表現されているのは、正直驚きですらあります。

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  • 出版社 ‏ : ‎ 河出書房新社
  • 著者 : 蜷川実花
  • 発売日 ‏ : ‎ 2017/5/11
  • サイズ ‏ : ‎ 22.8 x 1.1 x 15.8 cm
  • ISBN-13-978-4-309278-407