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いけばな展示が終了してホッと一息

11月14日(木)から17日(日)の4日間、東京・台東区にある正岡子規の旧居「子規庵」で、いけばな作品を展示させていただきました。お越しいただいた皆さまをはじめ、行けなかったけど子規庵のSNSで見たよという方、そしてイベントを企画・運営された子規庵保存会の皆さま、ご支援いただいた小原流関係者の皆さま、大変ありがとうございました。

初の子規庵いけばなイベントに参加

今回は、東京都文化財ウィークに合わせて開催され、5週にわたって毎週1組、合計5組のいけ手が参加する「花を活ける」イベントでした。私は子規庵のボランティア組織「子規庵宇宙の会」に所属しています。そのため、活け手として参加するだけでなく、自ら編集・執筆に携わる広報紙「子規庵だより」への記事掲載も視野に、毎週、完成作品の写真撮影やいけ手の方とお話をする機会にも恵まれました。

草月流の先生や同じいけばな小原流の大ベテランの先生、根岸の老舗花屋「花ふじ」の皆さまといった、花をいけることをライフワークとされている方たちのお作品は、どれも本当に素晴らしかったです。毎週、まったく違う雰囲気の空間に変わる面白さ、植物の装飾的な魅力も改めて感じました。今週木曜日から始まる茶花のスペシャリストである茶道裏千家の先生のお作品も、とても楽しみです。

さらに、子規庵という場で花を囲んで、多くの人が一期一会の時間を楽しみ、語り合う。なんとも素敵な時を過ごすことができたのもまた、子規庵という場所ならではだったと思います。

子規さんと子規庵に集う皆さまに贈るいけばな

今回の会場は「子規庵」ということで、敬愛する正岡子規さんへ捧げる花、そしてこの子規庵がさらに引き立つ花ということを念頭に、考えました。子規さんは花の句を多く作っていましたし、有名なのは「柿くへば…」ということもあり、いろいろなアプローチが考えられました。その中で私がいけたのはこの3点です。

①8畳間
②床の間
③机上

大規模な花展や合同展示の場合は、全体のトーンやコンセプトを合わせることも大切な要素になります。ただ、今回はそうではなかったことと、私はもともと誰にでも心の中に「特別な一花」があり、その人や空間と花をつなぐことで、他には代えがたい唯一無二の価値を発揮するのだということを信じています。
「子規庵」という場所で、「特別な一花」を自分なりに掘り下げ、今回の作品としました。

①8畳間(客間)

秋の味覚を使った作品。
後皿の左は根つきの里芋です。

子規さんが食べた物の記録は、さまざまな著作で見ることができます。ある意味、病気と闘うために、食べることと懸命に向き合い続けた人でもありました。秋には「栗飯」「ふかしいも」などを召し上がっているのをみて、「子規さんに美味しいものを召し上がっていただきたい」と思い、今回、植物でもある秋が旬のお野菜を使う作品にしました。
また、ピンク色の胡蝶蘭は、それらの上を嬉しそうに飛び回る姿をイメージし、ユーモアで愛らしい子規さんの姿も重ねました。

後ろのお皿の黄色いのはバターナッツかぼちゃです。生命力あふれる根つきの里芋、唐辛子も配置して、「食べることは生きること」の雰囲気を出すよう努めてみたのですがいかがでしょう。子規さん、喜んでくれたでしょうか?

②床の間のお花

菊3種と紅葉ヒペリカムです。

子規庵の客間には広い床の間があり、掛け軸には「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」と子規さんが揮毫した石碑から写した文字が。なにより知られた句ですし、これをしっかり見たい方も多いと思います。
そのため掛け軸よりもでしゃばらず、引き立たせることを意識しました。花は、この時季ぴったりの菊を低く小さく配置しています。

小原流では菊は非常に格式の高い花であり、また重陽の節句などにもみられるように菊が長寿や健康の象徴とされることもあります。個人的には特に格式の高い床の間にぴったりと思っているのですが、一方で、お墓や仏壇にお供えする花のイメージを持つ日本人も多くいらっしゃり、色選びで工夫しました。

③鶏頭の小作

へちまと鶏頭の競演

お話をいただいた時、ぜひとも鶏頭をいけたいと思いました。子規さんの句で好きな句はいくつもありますが、中でも、

 鶏頭の十四五本もありぬべし
 鶏頭や糸瓜や庵は貧ならず

が好きです。鶏頭の燃える炎のような姿に闘志がわきますし、豪奢な住居ではないけれど植物がたくさんあるので貧しくないという子規さんの感性が素敵です。けれども、11月中旬というと、もう鶏頭のシーズンは終わってしまっていて、とても14~15本の花を使っていけるタイミングではありません。ただ、ガラス戸の向こう側には、これも9月が旬のはずの「糸瓜」が時季外れにぶら下がっていました。そこで1本だけ鶏頭を使って、9月には見られなかった「糸瓜と鶏頭の競演」をここで仕立てることにしました。子規庵ボランティアの皆さんにも喜んでいただけたかな…。

師を持つ有難さとその絆

今回、一緒に作品制作をしたのは同門の大川真喜子さんです。

6畳間(病間)
資料室(台所)
廊下

師匠である畔蒜博葉先生の下、長らく一緒にいけばなを習ってきました。今回のお話をいただき、軽い気持ちで大川さんをお誘いしてしまったのですが…。「いや、待って。子規庵って文化財でそこらのレンタルスペースとは全然違うし、いけ込みは平日だし、これ、大丈夫かな」と思ったところ、ご快諾いただき、忙しい中で何度も子規庵にも足を運んでくれました。本当に感謝です。大川さんとは、これからも一緒に成長していきたいと思っていて、こういった貴重な経験も一緒に共有財産にしていけたらと思っているので嬉しかった。そんな仲間ができるのも、いけばなの魅力のひとつです。

加えて、なんといっても師匠の畔蒜先生のサポートは本当にすごかった。伝統文化の世界で師匠と弟子といったような関係性が苦手という人もいると思います。でも、いざやろうと思った時の親先生の頼もしさといったら…。自分の親よりも親身に手取り足取りご指導いただき、先生との絆がより一層強まりました。先生、一生ついてゆきます!

ちなみに実の親は、「あ、その期間はサークル活動とかあって行けないわ」と…。まぁ元気でいてくれるのが、一番ありがたいけどね。次があれば、ぜひ来てほしいな。

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